MESSENGER 辛淑玉さん
−時期的に少し経ちますけれども、石原都知事の「三国人」発言についてどう思われますか。
もう、扇動的だよ。扇動的で不誠実。つまり、大量の殺人がおこなわれるかもしれないという危機をつくっているのが石原都知事だよね。
今回の「三国人」発言というのは、記者会見したり、訴えたりする力のない人たちをピックアップし、嘘の情報を流し、「あいつらは凶悪犯罪を繰り返している」ということを言ってね、「あいつらを叩け」ということを指示したという、絶対にやっちゃいけないことをやったわけ。
この状況に対して一番危機感を感じなきゃいけないのは在日だよね。でも在日は全く腰が引けちゃってる。もうあいつは謝っているからもう手打ちにしよう、みたいな言い方して、多くの在日は、未資格就労の人たちとか、一見して外国籍住民であることが分かるような人たちを見捨てたんだよな。こんなことやってたら、恥ずかしくて卑怯でどうしようもないな。
−あの発言に即座に反応なさったのは、在日では辛淑玉 さんですよね?
多分ね。十一日に新聞で確認して、仕事が終わって自分の関係者やマスコミに文章を送って、十二日の朝に記者会見をした。一人で始めたけど、今は一千人集会とかできる状況になったよ。一人が怒れば世の中動くんだよ。つまり、想像を超える怒りっていうのがあるんだよね。それをちゃんと集約してあげれば、大きな力になって行くから。 だって、許せないよ。どうしてこういうときに声を上げないのかだよね。ファシズムですよ。問題は四つある。まず、わざわざ差別 語である「三国人」という言葉を使った。現在、その言葉は、全く「三国人」とは関係のない人たちを叩く言葉として使われている。例えば、肌の色の違う人が「三国人」だと言われて職を失ったりしてる。つまり、新しい差別 用語として定着したってこと。
それから「不法入国した外国人、三国人が凶悪犯罪を繰り返す」だなんて、警察白書のデータを見たら分かるんだけど、全くの嘘ですよ。全体的に外国籍の犯罪率は減ってる。意図的に、データを読んで発表している。
法治国家である以上、犯罪に国籍や民族、グループは関係なく、犯罪そのものを取り締まるべきでしょう。東京の犯罪で、岡山出身者が×%、山形出身者が×%とやりますか?
さらに、どこの歴史を見たって災害の時に外国籍住民が騒擾事件を起こしたなんていうのは一回もないのよ。反対に、世界で唯一あるのは、災害の時に外国人住民を殺したという、日本の関東大震災時の朝鮮人虐殺、これだけなんですよ。
石原都知事は、自衛隊という軍隊の前でこの発言をした。つまり、「外国人は殺してもいい叩け!」って言ってるようなもんでしょ。 こういう扇動は、かつてヒットラーがやっていた。
ヒットラーは、まず、共産主義者や社会主義者を叩いた。次に、ユダヤ人、性的嗜好の違う人たち、ハンディキャップを背負った人たち・・・。彼らは、多くのドイツ人が共感しない人たちだった。ヒットラーはそういう人を叩いて、最後は、大量 虐殺までやった。人々は、あれだけの血が流れなければ、ファシズムの嵐を止めることはできなかった。
今回石原都知事は一番最初に銀行、つまり金融という、社会的に認知されにくい人たちを叩いたよね。で、その次誰を叩いたかといったら不法入国者、外国人たちだよ。全くパターンが一緒。多分次は社会的に認知されない官僚とかを叩いて、次に来るのはアジア系の住人。その次はウチナンチュ。その次はアイヌ。次は障害者。現実に障害者に対しては、既に「この人たちは人格はあるのか」なんて言い方してる。
それから、女性差別なんてのは最も激しいね。彼が書いている買春の文章なんか読んだら、最低だよ。ベトナムの貧農の娘を買って、その娘は自分のパンツを欲しがっただとか、その娘はどこそこで食べた料理より美味かったとか。
−下品ですね。
そうだよ、下品だね。それだけじゃなくて、例えば「スパルタ教育」って本の中では人生はやるかやられるかだから、苛めるか苛められるかだから、「いじめっ子を育てるのが大事だ」なんてことを平気で書いてるしね。こういう人が、「心の東京革命」とか教育を説いて、公職のトップにいるんだからね。今の状況は非常に危ない。かつては抗議をしてくる人たちは右翼の名前を語った変な人たちが多かったんだけど、今は違うよ。普通 の人が堂々と名乗って抗議をしてくる。そして、堂々と差別的発言をする。彼らは石原都知事からお墨付きをもらったんだよ。
−ネットワークを通じてやろうとなさってることはズバリ?
石原の首を取ること!それが「石原やめろネット」の目標。それとは別に多文化探検隊っていうのをやってるのね。この目的は異文化に触れて学習の場を獲得すること。そして一人でも多くの命を守ること。
−この異常なまでの石原支持の背景は?
簡単なことじゃない。社会のフラストレーションがそっちに向かってるんだよ。今日本で起きているのは先進国共通 の課題。あたしは自分の人生の中で、今年の夏が一番危機的だと認識してる。
−若い世代の同調が気になりますが、最近はやりの自由主義史観的な流れの影響は?
めちゃくちゃあるよ。影響力も広告宣伝も権力に近い方が強い。だからアッという間に席巻するだろうね。
でもね、自由主義史観が出てきた根本的な原因は、やっぱり韓国にある。日韓はお互いに戦後も甘い汁を吸ってた奴らが手を取り合った。慰安婦だってそこに朝鮮人の協力者、売国奴がいたから成り立ったわけでしょ?まず足下の人間をちゃんと処罰しなきゃ。
だって、イスラエルがドイツの将校だった奴を大統領にするかぁ?韓国は日本の兵隊だった奴を大統領にあがめて、今そいつが歴代大統領の中で最も人気があるだなんて、そこに韓国の民度の限界を感じる。それくらい被害者と向き合う力が韓国にもないんだよ。だから、今の反省しない日本をつくった一義的な要因は、韓国だよ。そういう政府を許してきた韓国人。
−ソウル五輪を起点に韓国イメージも大分変わったと思うんです。屈託なくストレートに「韓国が好き!」という若い日本人が増えてますよね。
変わったね。かなり。非常に親しみやすい方向に向かってるね。だけど、だからといって在日の問題は何も解決しないよ。
−そこが問題ですよね。
どっちの国も在日のことなんか考えてない。恩恵も何にもなくて被害だけ被る存在って一体何なんだ?!奴隷じゃないか!って思わない?
自分の構造を変えられない人間たちが奴隷だから、あたしは在日ってのは三国の植民地もしくは奴隷だと思ってますよ。
−く、暗いんですけど。(笑)
そうだよ、暗いんだよ。(笑)在日は在日の問題に声を上げていくことによってのみ、国家を変えていける。だからあたし、北朝鮮と韓国の架け橋、なんてことに、もう全く興味なーい。(笑)
あたしはやっぱり在日の問題にしっかり焦点を当てないと、ずれていくんじゃないかと思うね。南北統一、離散家族って言うけど、1959年から10万人の人間が日本から北朝鮮に行って、そのうち6千人が日本国籍を持った女性たち、2千人がその子どもよ。その子たちも離散家族なんだよね。在日はそっちのことで話をしなきゃいけないのに、それもやらない。中朝国境に出てきている帰国者難民のケアもフォローも何もしない。そういう難民たちを無視し続けるよね。
つまりさぁ、己の問題にはタブーをもうけておいて、南北の平和とか会談とかで浮かれている、どうしようもないなぁって思うんだよね。
(中略)
−ちょっと別のこともお伺いしたいんですけれども、辛淑玉 さんが一〇代二〇代の若い頃に一番悩まれたことって?
まぁ、環境が違うからなぁ。
−時代ということですか?
時代もあるけど、経済的な格差もあるからね。在日と言っても、パチンコ屋の息子と一緒にされたら全然価値観が違うしなぁ。悩んでいたのは、どうやって飯を食って生きるかということだね。
−働き始められたのは?
七つかな。
−七つ・・・。家の仕事ですか?
いや、違うよ。あたしの時代は子どもでも仕事があったよ。内職したりとか、朝からヤクルトやら新聞配達したり。子どもでも働く場があったからずっと働き続けているし、それが当たり前だと思ってたし、将来仕事をどうするかって言ったって、どうせ水商売かなんかしか選択肢がない。だからどう食って生きていくのかってことにいつも頭を働かせていたよね。どうすれば飯が食えるようになるのか。どうすれば父や母が泣かないですむのか。そして、本当にこの人たちを泣かせているのは誰なのかってことをいつも考えていたね。自分の大切な人たちの泣いている姿、見たくないでしょ。
−辛淑玉さんを辛淑玉たらしめた最大の要因は一体なんだとお思いになりますか?
現実。現実ときっちり向き合ってきた。逃げないし、誰に助けてもらおうとも思わない。自分の敵は誰なのかって考えてる。朝鮮の女にとって最大の敵は、朝鮮の男だよ。暴力を振るうね。この事実をやっぱり認めなきゃダメ。民族差別 のためにどれだけ朝鮮の一世の男たちは一世のハルモニたちを殴りつけてきたか。朝鮮の女にとって自分の命のかかった最大の敵というのは、実は朝鮮の男だった。在日だったんだよ。それをみんなして見えなくして、社会が悪いだの差別 のせいだの、そういう理由にするんだよね。
だからね、現実を見ないと。あたしは民族幻想も国民国家幻想も、一切無い。その犠牲は女と子どもに来るんだよ。
−それはいつ頃から思ってきたことなんですか?
分かんないね。いつからそういう風になったのか。自分自身を総括しないといけないので。自分の歴史の中でどこで頭が変わったのかは分かんないけど、でも少なくとも現実と向き合った時に「嘘ばっかり!」とは感じるね。嫌われてもいいから、いざという時に手を取り合える関係を築けるかだよね。全身全霊で仲良くしようなんて、嘘っぽいじゃない。自分の近所だって一〇件あったら八件は嫌いだもんな。(笑)
それと同じなのにさぁ、何で国家や民族になると全身全霊で仲良くしようとか言うのかなぁ。現実は自分の頭の中でつくっちゃダメなんだよ。美しい現実につくりたがるのはやっぱりやめた方が良いと思う。そうしないと、その現実の中で一番取り残されている人間のことを救えないでしょ。ファシズムってのは六割はみんな豊かなんだよ。三割が抑圧されてる人で、一割が殺されるのね。そのファシズムの嵐の中で一体どこに自分の目線をおいて見るのってことなの。自分を六割の中において「良かった良かった」と言って見るのか、抑圧される人の立場で見るのか、殺される人間の立場で見るのか、そう考えた時に、あたしは殺される人間の立場で見る。そうでないと、やっぱり加害者になる。加害者にはなりたくない。被害者にももっとなりたくない。
−それが大原則?
そうだな。
(中略)
−最後の質問ですけど、在日の未来像をどう描かれますか。今のお話を聞くに、かなりくらーい感じがしますが。
暗いわけじゃないよ。現状認識を言っただけ。在日の未来像かぁ。在日は分からないな。それは多様だからね。自分の未来像でもいい? 自分の未来像・・・。夢はあるね。在日の一世のハルモニと、それから日本の戦争被害者たちと心の落ち着ける安心して暮らせる社会をつくること。「二一世紀はこうなる」、じゃなくて、「二一世紀をこう創る」という意識を持って生きてるから、どうなるかではなくてどうするかと聞かれれば答えられる。どうなるかは分からない。でもどうするかと聞かれれば、そういう社会を創る。
介護者には男も女もいて、ウチナンチュの人もいて、それから手話で語る人もいて、肌の色の違う人がいて、そしてそのホームの中には多様な人と多国籍な料理がある。そういう二一世紀を創ることが目的だな。それがサンプルになれば社会はもっと開けていくよね。そういうサンプルを創らなければいけないし。それは南北がという発想ではなくて、今ここで、足が地べたについている所でやる。そうやって日本の社会が変われば、恐らくその影響力はアジアに広がっていく。
−最後にと言っておきながら(笑)、短く一言でいいのでわたしたち三世世代にメッセージを。
うーん。頑張らないこと、かな。頑張って頑張ってきた結果が今これだから、頑張らないで本当にやるべきことは何なのか、知恵を使ってやった方がいいかも知れない。
在日の文化って抑圧の文化だから、新しいことを創ろうと思ったら頑張らない方がいいかも知れないよ。自分を大切にすることが大事だからさ、闘うことが自分を大切にすることかも知れないし。それとさぁ、今度多文化共生探検隊にも人手出してよ。もう、人手が足りなくてねぇ。少しでも出してもらえると助かるんだけどなぁ。
−はい。必ず。ご連絡します。(笑)
あんたも大変やなぁ。(笑)
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