MESSENGER 金守珍さん
『新作の舞台「吸血姫」の準備で大忙しの金守珍さん。新宿梁山泊の本拠地に足を踏み入れて、かなりビビリながらインタビューに挑みました。だって、何しろ秘密基地みたいな雰囲気。(笑)演劇ど素人がこの巨匠に一体何を聞けばいいのか、そんな不安をすぐに吹き飛ばしてくれた、大変暖かい金守珍さんの素顔、読者の皆さんにお届けします。』
−雑誌「世界」の昨年七月号の中で金守珍さんが「日韓文化交流と在日の役割」というテーマでお話なさっているのを拝見しました。その中で「日韓の文化交流には在日が間にはいるべきだ」、また、在日が本国との架け橋になれるとも仰っていましたね。具体的には在日にどのような役割があるとお考えなのか、まずそこからお聞かせ下さい。
文化っていうのは多方面にありまして、人間が人間たる姿勢、思想も含めて、衣食住から始まって日々の暮らしというものが文化を生んでいくんですよね。まあ、今は変わってきたかも知れないけど、僕らは一世から徹底的に食べ物とか、教育の面 ではウリナラというかね、本国に対して、「統一したら帰るんだ」という夢を持ちながら暮らしていましたから、まず日本を拒絶するところから僕の場合は始まったんですよね。日本に住みながらもそういう民族教育を受けていましたから。
でも生まれた国ですから、僕らには本能的に日本の文化っていうのが入り込んでいくんですよね。そういうのってずっと染み入っていくもんじゃないですか。それをまた民族教育、親の教育とも言えますけど、それを受けることで二倍学んできた、両方の国を愛する気持ちをバランスよく学んできたんじゃないか。
僕は狭間、隙間、接点が広ければ広いほど豊かな人間になっていくといつも言ってるんですけど、僕らは同化しようにもしようがないんでね。それこそ多種多様な韓国人が文化的なものを持って出会っていけば日本も豊かになっていくんじゃないかと。
表現というのは瞬間。すぐ消えちゃうんですよ。だから演劇というものが大事なのは、残していかないということなんです。瞬間、瞬間。そしてある時花開く。記憶に残りながら何かに寄与していく。
韓国の民主化というのも一番大事な文化の激突、演劇の激する凄い激動だったんですよね。そこに金芝河という素晴らしい詩人が出て、その金芝河の名前とじように金大中もいたわけだから、その金大中政権が出来たことで北朝鮮とも仲良くなり始めたということで、まだ予断を許さないですけど、文化を持って闘っている人たちがベースにあるからこそ成熟してきたと僕は思うんです。
九一年問題なんかをみても、日韓は両方とも我々は同化して無くなっていくんだとそう思っていたわけですよ。ところがどっこいですよね。逆ですよ。
今、帰化問題が凄く深刻に語られてますね。年間五千人ですか?そのまま無くなっちゃうんじゃないか、と。じゃあ一回余分なものをそぎ落として、無くなっちゃって良いんじゃないか、と。で、なくなるか?
例えば僕はなくならない。友人見てたってね。数あわせで七十万人いるから安心しているっていうのも危機感が募るんですよね。だったら十万人に減っちゃっていいじゃない。じゃあ次どういう形で在日というものがこの日本で存在していくか、僕らの役割も含めて見えて来るんじゃないのか。
僕らは本国志向をやめる。どっちを愛するか、なんてこんな馬鹿げたことはないんで、日本も愛する、北朝鮮も。友がいっぱいいますから、愛さずにはいられないじゃないですか。じゃないと虚しいじゃない。祖国に帰っちゃったというこの人たちの思いも分んなきゃいけない。彼らは思いを馳せていったんだから。
韓国も僕らが言ってたような軍事独裁政権は崩壊しているわけだし、だから僕は韓国も愛するようになったし、日本も愛するようになったことで、逆に僕らが受けた朝鮮学校での教育がやんわりとなって今ちょうど良い場所にいるかなあ、と。それを政治とか経済じゃなくて演劇という文化の中で僕は見ていこうかな、と。
<中略>
−金守珍さんが「世界」の中で仰っている、「複眼を我々は持っている。それを活かさなければいけない。」ということに非常に共感しました。存在として複眼的だと言えるとしたら、在日なのかも知れないと思うんです。在日コリアンであって、日本、韓国、北朝鮮を眺められる。そういう意味では特異な存在だと思うんですけれども、若い世代などが実際に複眼的にモノが見れているのかどうなのか、もし複眼を持つということが在日のパワーの源であるとするならば、今の若い在日たちはその複眼を持てているのかどうなのか、どのようにお考えになりますか。
分かんないね、それはね。持ってるヤツもいるだろうし、持ってないヤツもいるだろうし。僕らの時代でも、じゃあ持ってたのかって聞かれれば、自覚したことないもんね。自ずと持つようになるんだよ。成長すれば。
若いうちなんて複眼なんか持ってないもの。俺だって「日本人ぶっとばせ!」みたいな発想だったからね。一直線でしょ。(笑)
逆に、こういう演劇が僕に色んなものを与えてくれたから。演劇って虚構の世界、嘘の世界でしょ?でもそこに真実を込められるっていうこと。直接ストレートに喋っても意味ないことを、本音を介してころっと吐く。
僕は演劇という一つのジャンルの中で文化というものはつくっては壊し、つくっては壊していくものだと。でも、つくっている瞬間は真実である。別 にそれで捕まる国でもないし、捕まったとしても迂回してアイロニーを込めてやっていくというのが我々の知恵じゃない。金芝河から学びましたけどね。
僕は複眼というものは人間同士が出会っていくってところにしかないんじゃないかと思うんですけどね。そういう意味で韓青連みたいな組織も大事だと思うし。組織っていうのは色んな人が出会う場を提供していく訳じゃないですか。ただ、ふれあうものがどんどん細々として同じ出会いにばかりなってしまって、結局新しい血が入ることを怖がることが多々あるからね。組織崩壊に繋がるようなものもあるでしょうし。ウイルスみたいな菌が入り込んでみんなやられちゃう、みたいなこともあるでしょうけど。それを怖がらずにもっともっと上に立つ人たちが勉強して、少しくらい風邪ひいても受け入れられる、ちょっとした菌で死んじゃうような、そんな軟弱な体力でなくて、ちょっとバイ菌入り込んでも共存できるような、そんなしっかりとした組織をね。
そういう意味でも、さっき若い人は分からないと言ったけれど、若い人と出会うためにも民族教育をちゃんとつくる。日本の学校と同じようなカリキュラムでないものをね。
僕がある意味民族学校に感謝しているのは、受験勉強というものが無くてね、学校ってただ先生とサッカーして遊んでいたということだね。
<中略>
よく、「関係ねぇや」っていうの、あるでしょ。「俺は自由人だ」。ってやつ。 ー「地球人だ」と。
もう、だめだね。ダメだっていうのは、あまりにも無責任すぎる。そうなるために今僕らは闘っていかなきゃならないのに。地球人になるには早すぎる。
絶対的なものは持たないで、いつも迷いながら、いつも自分に疑問を呈しながら生きるということ。これは哲学だよね。しっかりした哲学を持てるような学校教育が必要。子どもを育てる、若い人を育てる。これでいいんだ、じゃなくて、もっと何かがあるだろうって疑問を持つ。そして自分が豊かになったらその豊かさを誰かに与えてあげる。宗教じゃなくて、そういうものを望みますね。そこで演劇もちょっと寄与していいんじゃないかと。
単色で染めちゃいけない。多種多様でいい。
<中略>
−これまで韓国でも何度か公演をなさってますよね。
韓国は七回くらい。
−初めての時の感触ってどんな感じだったんですか。
凄いですよ。「新たなる文化侵略」とか言われてね。
−ええー?!
だって「在日同胞劇団」ってことで行くわけですよ。日本語禁止でしょ?まだ十二年前だから。
−十二年前ですか。
でも在日って言ったって四人しかいないんだよ!あと三十名は日本人なんだから。ただ演出家、作家、主演女優が在日ってだけなんだから。
−それはもう、「在日」って言われますね。
騙した訳じゃないんですよ。で、見てみたらみんな着物は着てるは、みんな日本語でしょ。(笑)
−「あれ?」って。(笑)
「あれ?」ってね。(笑)ま、そういうアホもいたけど、カルチャーショックですよ。向こうにとっては。次行った時はヨイドにテント張ったんですけど。僕は韓国じゃ凄いですよ、日本じゃこんな貧乏しているけど。だから今度は韓国が五千万出資して映画を撮るんですよ。
−素晴らしい!
もう契約が来たんですよ。「八月のクリスマス」って映画があるでしょ。その会社が投資しましてね。韓国オールロケなんですよ。大阪の朝鮮人部落をつくってね。韓国人にも「我々はこうして生きてきたんだ」ってことをね。あまりにも知らないから、「パンチョッパリ」なんて言われてきたけど、「パン(半)じゃない、俺たちはダブルだ!こうやって日本でもちゃんとしっかり生きてきたんだ!」ということを映画で表現したい。
−素晴らしいですね。なにが最も評価されたとお考えですか、ご自身としては。
・・・全部ですよ。ぜーんぶそのつど大衝撃ですよ。光復節の特集ドラマにもなっちゃったんですから。ドキュメンタリーで。
−そうですか。いつごろ?
おととし。KBSですよ。一時間半です。
−凄いですねー!
そこに柳美里も入ったの。柳美里はここで在日韓国人のおやじをテーマに話を書き始めたの。ここでね。「向日葵の柩」。それが芥川賞をとっちゃっう原点の作品。
とにかく全部です。そして、必ず僕だけはウリマルでやるんです。僕だけ民族教育を受けてるから、中心人物として必ずウリマルでやる。だから単に日本の劇団が行ったって訳じゃないんです。「人魚伝説」って言う舞台は、在日の金本商店、いかだに乗って海を渡ってきて差別 を受けながらどこにいても家族は家族だっていうのを描いているから、これは大ヒットですよ。それを漢河にいかだを浮かべてやったんですからね。
−凄いですね。
凄いよ。あれはびっくらこいちゃうよ。ソウル市長に食事会に招待されてたんだけど、みんな断っちゃった。だって、いかだ片づけるので精一杯だもん。飯なんかくってる場合じゃねぇやって。そんな失礼なこと、ないよね。生意気だったね。(笑)
−韓国にはそういう形式のものっていうのはないんですか?
ない。だから多大なる影響を与えてますし、今は日韓のワールドカップに向けて進んでいるのが、韓国演劇の第一人者イ・ユンテクさんが脚本を書いてくれたんですけど、対馬の話でね、朝鮮通 信士を途絶えさせないように宗家が韓国から女性を連れてきて、その恋愛劇なんですよ。その宗家の王様っていうのがキリスト教徒で、長崎ですからそこに西洋文化も入りながらアジアの文化って何なのかを考える。卑弥呼まで出てきますから。豊臣も家康も出てくるし。歴史大ロマン。韓国七名、日本から八名で編成して来年七月に釜山と対馬、東京でプレイベントやって、再来年六月ワールドカップでしょ?その時はソウルででっかくやりますよ。日本は多分池袋の芸術劇場。それは進んでます。脚本は出来上がって今キャスティングしています。それが一つのまた在日としての役割。日韓ワールドカップ。演出家は俺を指名してくるわけですよ。それは韓国の成果 ですね。僕しかいない、と。
<中略>
−最後に、若い在日にメッセージがあるとしたら?
さっきも言ったけど、しっかり生きていきましょうよ。(笑) 変化を望まない国にあって、我々は変化を望んで生きていくわけですから、風当たりも強いと思うけど自分にしっかり向き合って常に疑問を持ちながら前に進んでいく。これでいいのかとね。本音で。気負わないで。やりたいことをやっていきましょう。
やれるようになったんだよ。昔はやりたくても出来なかったんだから。色んな分野で今はそういう道が開けたんだから、是非チャレンジして欲しいと思います。今までは「どうせ帰化しなきゃ出来ねぇ」みたいな諦めがあったじゃないですか。就職できなかったし。大学だって僕の場合定時制高校から行きましたから。そういう色んな規制がなくなったわけだから、今こそ自分のやりたいことを思いっきりやって下さい。
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