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K-magazine 第3号
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「Kカルチャー」

<映画評>
『青〜chong〜』 李相日監督作品

movie

 主人公ー大成の心中、穏やかでない。

 姉が「結婚したい」と連れてきた男は、何と『チョッパリ(日本人の意、ただし蔑称)』でいやがる。いつの間にか美しく成長した幼なじみも、『チョッパリ』と付き合っているとの噂が流れるし、親友はバイト先で通 名を名乗っていることがわかる。

 朝鮮高校に通い、在日として何の疑問も持たずに今まで生きてきたのに。認めたくはないが、気が付かないところで、自分の身の回りは、微妙に、しかし確実に変化し始めていた。これまで直面 しなかった「現実」に大混乱の頭の中、整理しきれない感情。そんな状態で臨んだ野球の練習試合は、「『チョッパリ』なんかに・・・」の筈がボロ負け。

 いったい俺たちって、 何なんだ?!

 監督は李相日(リ・サンイル)。一九七四年生まれの在日三世。小・中・高と横浜の朝鮮学校に通 う。少年期までの生活歴において、私との類似点は多い。そのため、受けた教育や環境も酷似しているのであろう。あまりの懐かしさから、劇中繰り広げられるエピソードたちに、手をたたいて笑ってしまった(そういえば、観客の中にも何人かいたが、彼等も間違いなく朝鮮学校出身者であろう)。例えば始業のチャイムは『金日成将軍の歌』、綺麗なチマチョゴリの女教師は鋭い眼光の持ち主、といった具合だ。

 日本映画学校の卒業制作として撮られた五四分のこの作品が、第二二回ぴあフィルムフェスティバルで、グランプリを含む四賞を受賞できたのは、単に、舞台が朝鮮学校という目新しさのため、だけではないだろう。

 冒頭、高架橋を走るエンジの京浜急行線。ぐっと下がり、水面に映る鮮やかな青空と雲。タイトルの『青〜chong〜』の文字。この三色は朝鮮民主主義人民共和国の国旗の色でもある。この他にも、随所に色彩 感覚の非凡さを感じさせるシーンがちりばめられる。

 『チョッパリ』と付き合う幼なじみの奈美のヘグム(民族楽器)を、クラスの不良グループが壊す。仕返しに向かう大成の手には、水を入れたペットボトル。普通 に考えて、武器ではない。同じ同胞同士、徹底的にぶちのめす必要はない。奴等の、異質を受け入れられない度量 の狭さも、その理由も十分わかる。敢えて反撃の余地を残し、自らも痛みを受ける姿は、自身の、奴等と同質な部分も同時に懲らしめているかのようだ。こんな風にこころの機微、なかなか描けるものではない。

 はじめて自分のアイデンティティーについて悩み、野球部も辞め、親友の玄基とも絶交中、彼等のたまり場である屋上の椅子は、主を失い淋しく夕日だけを浴びている。静かだが、印象に残る。

 気になったところもある。描写の節々、細部まで忠実に朝鮮学校を再現する必要がないのはわかる。しかし、野球部のコーチが檄を飛ばす。「『チョン高』魂、見せてこい!」。

 おい待てよ、それはないだろう。「チョン」はご存じの通り、日本人が我々コリアンに対して使う蔑称である。百も承知でタイトルにする。この気骨ある監督にして、こんな使い方。欲を言えば、もっと丁寧に、熟慮された場面 で聴きたかった。

 ここで提示されるいくつかの事柄は、在日にとってはありふれたものばかりである。が、「そんなこともあるさ」と達観したくはない。大成の、自分の足下を見つめる作業は始まったばかりだ。「自分は一体何者なのか、そんなことはどうだっていい。自分は自分だ」と、一旦はケリが付く。悩み考えることの放棄。間に合わせの答え。だがそれもこの先何百回となく覆されるであろう。

 私にはそんな予感が残された。 (志夏)



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