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K-magazine 第7号
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<映画評>
『KT』 −裏切られた期待−

movie

 虚を衝かれた。

 一九七三年八月のことである。元・韓国大統領候補が、白昼、日本のホテルで突然消息を絶つ。拉致か、KCIA(韓国中央情報部)による暗殺計画か?!現韓国大統領である金大中の"空白の五日間"にいったい何が起こったのか?

 日韓朝を暗中飛躍するスパイ。手に汗握る緊迫のポリティカル・サスペンスを期待する。それが、見事なまでの肩すかし。スピード感あふれるハリウッド映画に慣れきった私は、サスペンスとは到底言い難いこの"たるさ"に戸惑う。それもその筈、描いているのは、金大中拉致事件を主題に見せかけた、戦後日本の現代史である。

 映画は、三島由紀夫が自衛隊の市ヶ谷駐屯地で「憲法改正に決起せよ」と呼びかけ自決する、その日から始まる。主人公の富田満州夫(佐藤浩市)は、三島とクーデターをしそこねた自衛隊員。防衛大学の一期生で、朝鮮関係の情報将校である。

 冒頭、報道記者でごった返す事件直後の市ヶ谷駐屯地の総監室前に、富田は菊を手向ける。一人の記者が近寄り、横顔にフラッシュ。「何か一言」、とコメントをもらおうとするその記者に、強烈な拳。富田は無言で立ち去る。

 三年後、この二人は奇妙な再会を果たす。上官からKCIAの手助けをするように密命を受けた富田が、金大中の独占インタビューを取ったことのある、この夕刊トーキョー記者の神川昭和(原田芳雄)に、身分を偽り接触したからだ。

 「金大中、紹介してくれませんか」。

 実はこの映画、荒井晴彦による脚本の段階では、より詳細な人物設定がなされていた。

 主人公の富田は満州で生まれ、十歳の頃侵攻して来たソ連兵に母親を殺される。父親はソ連の捕虜としてシベリアに抑留され、強制収容所で病死する。防衛大学一期生であることも、日本人でありながらKCIAの手助けをすることも、共産主義から国を守ろうというのが動機である。

 一方の神川は、昭和元年に生まれる。特攻を志願するも出撃命令は下らず、生きて終戦を迎える。戦後は軍国主義者であった自分を反省して、二度と戦争を起こしてはいけないと日本共産党入党。しかし、一九五六年のハンガリーに対するソ連の軍事介入で脱党する。

 しかし、監督の阪本順治が「何かの告発をするための政治的なドラマをやるつもりは無くて、ただの娯楽映画にこだわった」というだけあって、映画ではこうしたバックボーンをさらりと触れる程度にとどめ、個々の政治色・思想色は極力押さえている。何とも中途半端。その為、何を描きたかったのかが最後まではっきりしない。

 残念に思う。これでは、自衛官である富田が何故KCIAの作戦に肩入れするのか、余りに説明不足だ。劇中の「軍人が戦って何が悪いんだ!」や、「豚は死ね、狼は生きろ」といったセリフに、彼の「狂気」以外を読みとるのは難しい。

 にもかかわらず、この映画には不思議な魅力がある。元来綿密に練られた脚本が描く戦後日本史は、大きな潮流ではなく、七〇年代の裏側。混沌とした時代と、矛盾に苦しむ日本人。

 三十年も前の事件を題材にしながら、自衛隊、憲法改正、天皇制と現在の日本の問題を提起する。この映画を振り返ったとき、金大中のことはすっかり忘れてしまっていた自分に気が付いた。

(琴志夏)


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