KEY Title
HomeページへHomeサイトマップSiteMapメール送信Mail
Main Menu
What's KEY
KEYネットワーク事務局
東 京北大阪生 野
東大阪尼 崎神 戸
社会活動・イベント
講座・サークル
情報・資料
Link
掲示板

情報・資料

K-magazine 第8号
Kマガ

K-magazine バックナンバー

Kカルチャー 書評

「ぷちナショナリズム症候群」 著者:香山リカ

book

 「二〇〇二年の日本に広がる『ぷちなしょな風景』。それは、あなたのすぐ隣にまでやってきているのではないだろうか。」こう問いかけて、本書は読者を招き入れる。まるで、ホラー映画のストーリーテラーが語る台詞のようだ。

 『ぷちなしょ』とは著者の言う「ぷちナショナリズム」を略したもので、例えばサッカーのW杯で無邪気に日の丸を振りながら日本を応援する若者のような、自らを「ナショナリスト」と自覚しているわけではないが何となく日本が好き、そしてそれ以上は深く考えることのない人々を指す。米国同時多発テロから一年、今年六月にはW杯が「異様な」盛り上がりを見せるなど、確かに最近の日本では、「愛国心とは」、「ナショナリズムとは」といったテーマについて考えさせられる出来事が少なくない。そうした状況を考えると、本書が発売直後、新書部門でベスト一〇に入るほど人々の関心をひきつけたということも、納得がいく。

 本書の目的は「ぷちナショナリスト」とそれを生んだ社会背景について検討すること、であるという。まず著者は、W杯の熱狂的日本人サポーターや、君が代を歌う歌手たち、『声に出して読みたい日本語』ブームなどの、様々な『ぷちなしょ』的社会現象を挙げた後、精神科医である自らのフィールドの懐刀、「エディプス・コンプレックス」を持ち出して「ぷちナショナリスト」たちの心理学的分析を行い、続けて、現在日本では「社会の階層化」が進んでおり、「中間層」が「ロー階層」と共に「ラディカルなナショナリズム」(著者曰く、昨今の極右化が目立つヨーロッパ、特にフランスの極右およびそれを支持する人々を指す)に走る危険性があると、警鐘を鳴らすに至る。そして最後は、「愛国ごっこ」を入り口としたナショナリズムの渦に絡み取られないための三つのシナリオを示すのだが、それらは残念ながら態を為していない。

 「ぷちナショナリズム」について語りながら「ナショナリズム」については一言も触れない、これが本書の最大の特徴である。著者は、「ぷちナショナリスト」たちが、無自覚なうちにラディカルなナショナリズムに走ることへの懸念を表明しつつも、そのような事態が何に帰結するのかについては一言も述べていない。それは本書が、時代や状況によって「日本」というナショナルのものに翻弄され続ける人々―在日コリアンは紛うことなくそのような存在である―にまで思いを馳せることができないでいることと関係があるように思われる。「ぷちナショナリズム」という手軽な言葉を当てはめてみたところで、その文脈で語られているのは、暴力性を根底に秘めた、内と外を作り出す装置としての「ナショナリズム」であり、それは、直接的にも間接的にも「他者」を排除することでしか成立し得ないことを宿命づけられているのである。マジョリティの内部で自己完結してしまうような「ナショナリズム論」は、結局、不完全なままでしかない。

 神職らが企画し、幼稚園児や小中学生に赤を塗らせたものと知らず(また知ったところで何も関せず)、ただ渡された日の丸を振りながら日本代表を応援する人々。サッカーW杯で目の当たりにした「日本人の心がひとつに束ねられる」光景に、「不気味なもの」を感じた人は少なくなかったはずである。その思いを解き明かそうと、テレビや雑誌で馴染みのある著者の、話題の新刊を手に取る読者が目に浮かぶ。趨向は捉えていた。しかし読み終えたところで、「ナショナリズム」へと眼差しが向けられることはない。すぐ傍にいる「他者」に気付くきっかけも与えられずに、「ナショナリズム」はただ悪戯に、消費され続けていく。

(安彩子)


TOPへ | HOMEへ
お問い合わせはこちらメール送信まで
Copyright (C) 2004 KEY. All Rights Reserved.