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K-magazine 第11号
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Kカルチャー 書評

「愛と怒り 闘う勇気−女性ジャーナリスト命の記録」
著者:松井やより 岩波書店

book

 先日、友人から信じられないことを耳にした。彼女が派遣社員として働くその会社では男性社員に限り、住宅手当が毎月六万円付き、扶養家族がいる社員においては、それ以上の手当てが付くという。こんなご時世に景気のいい話じゃないか。ってオイオイ!驚いたのはその事実だけではない。それに対し、誰も不満を持っていないというのである。聞けば、そこで働くほとんどの女性が既婚者もしくは自宅通いで、金銭的に困っていないとのこと。派遣社員である彼女に直接その問題が降りかかることはないが、当人たちも同様に全く気にしていないとのこと。その話を聞き、その問題と一番関係の薄い私が憤慨するという結果になった。

 二〇〇二年十二月二七日に著者が永眠してからまだ一年も経っていない。私の学生時代からの記憶を思い起こせば、「従軍慰安婦」問題などの集会やそのチラシでは必ずといっていいほど著者の名前があった。あまりに頻繁に目にしていたせいか、一方的に「よく知っている」感に駆られ、訃報を耳にしたとき、いたたまれない気持ちになった。

 本書には、著者が新聞記者として、ジャーナリストとして、女性として、これまで取り組んできた様々なことの振り返りと、未来に向けての渾身のメッセージが綴られている。

 著者が自ら人生の原点として振り返るのは、生まれ育った環境と米、仏への留学である。当時はまだ貧しかった敗戦国日本から向かったひとりの女性にとって、両国はあまりにも豊かで美しいものであった。何よりも日本とは違って、女性が尊重され、いきいきと暮らす様に感動した。しかしその華やかさのすぐ横での凄まじい黒人差別の存在や、またフランスでは自身がアジア人として差別を受けたことで、それぞれの国の人権思想の限界を知る。その留学からの帰り道に立ち寄ったアジア各国で、想像を絶する貧しさを目の当たりにし、またその地で過去日本が残虐行為を犯したという事実が、後に著者がアジアこだわるきっかけとなる。

 帰国後、朝日新聞社の記者になった著者は、社内の完全男社会に悩まされながらもそれをバネに、ジェンダーつまり性差を意図的に隠し、とにかく実績をあげることに精を出した。入社当初は消費者問題や公害などの社会問題に真正面から向き合い、足を使って、自分の目で見て、耳で聞き、常に被害者の立場から、高度成長の影を暴いていった。

 そんな著者は一九七〇年代初めに取材旅行で訪れた欧米諸国でウーマンリブに触れたことをきっかけに、ジェンダーの視点から記事を書くことが自分のすべきことであると確信し、以降その意思を貫く。出世思考の強い同僚たちを横目に、自らアジアに出向き、貧しい国々で性暴力などに苦しむ女性たちの存在を世界中に報せるべく積極的に取り上げた。一〇〇〇万部発刊するマスコミの力を大いに利用しながら、悔しくも取り上げられなかった記事においてはミニコミ誌を利用するなど、使命に駆られひたすら書いた。

 著者がここまでこだわったのはなぜだろうと、そんな思いが浮かぶと同時に終章に辿りつく。相手の立場に立つこと、何ができるかを創造し、行動すること。いたってシンプルな発想が著者を最後まで動かした。

 自分さえよければよいという発想、たとえば六万円無くても困らない人たちの「OK」の声と、それを鵜呑みにする人たちの存在が、闘う人々の足かせになりうることを想像する。

 「いまの時代、とくにこの日本では、闘うということは異端視される。したがって闘うには勇気が必要なのだ。」

 「闘う」−仰々しく受け止められがちな言葉だが、たくさんの当事者の勇気とともに闘ってきた人の言葉だからこそ、このタイトルが映えるのかもしれない。

(金和代)


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