情報・資料

K-magazine 第17号
Kマガ

K-magazine バックナンバー

LOVE & PEACE 「不法移民規制法案」

 去る5月1日、メーデーにあわせて全米各地で中南米出身のヒスパニック系労働者や団体による、大規模なデモや抗議運動が行われた。これは、昨年12月に米下院で通過した「不法移民規制法案」に強い反対を示すものだ。この法案は不法移民を雇った雇い主に高額の罰金・罰則を適用したり、移民の流入ルートになっているメキシコ国境に新たにフェンスを設置する、不法滞在者には重罪を課すことなどを規定したものである。このこれまでにない厳しい案に、強い反発が出ている。

 アメリカには現在、不法移民が1200万人にのぼる数で存在すると言われている。もともと移民者で成り立つアメリカだが、その歴史をみると1800年代終わりから1900年の移民者の中心はヨーロッパからの移民だったのに対して、1980年以降になると、南北アメリカとアジアからの移民者の割合が半数以上となり、その後はその両地域からの移民者だけで約9割を占めるようになったという。

 こういったアメリカにおける移民者の量的増加と質的変化の結果とともに、移民で成り立っていたアメリカも、90年代以降の経済におけるひっ迫感も相まって、アメリカ市民の間にも移民排除の意識が強まっている。

 さて、移民は移民でも、今回のテーマは不法移民を排除するという動きについてである。先にふれた不法移民の数1200万人のうち、約半数は隣国メキシコからの不法移民であるという。アメリカとメキシコは陸続きであり、その境界には警備はいるものの、他国からのアメリカ入国に比べて、越境の容易さは比べ物にならない。そして、「Land of Opportunity」を目指してやってくるヒスパニック系が後を絶たないのである。私がかつて教会で会ったヒスパニックの女性は、海を泳いで渡ってきたと言っていた。また別の話では、ある境界区域で警備の交代時間を息を殺して待ち、子どもを連れ、物音ひとつ立てるだけで見つかりかねない静寂の中を無我夢中で走って越境してきたという。まさに命がけである。

 今回のデモや抗議の中心でもある、彼らの主張は「我々は米国の背骨だ」「我々移民は米国経済に不可欠な労働力」というものだ。それもそのはず、米国で働く彼ら(特に不法滞在者)の殆どの仕事はブルーワークであり、通常アメリカ人が好んでやらない仕事の大部分を担っている。その上、雇用主は彼らが不法滞在者であるということを理由に、労働力にまるで合わない安い賃金で彼らを雇っている場合が多い。今回はそういった彼らの不満が爆発したという具合だ。そしてこのメーデーの日、彼らは自分らがどのくらい米経済に貢献しているのか「存在感」を表現するため、また「不法滞在者としての権利」を主張するため、学校や職場のボイコット運動を行った。

 アメリカは民主主義国家という名のもとで、自由をモットーとしていた国だ。そして、「Land of Opportunity」「Country of Freedom」という言葉で表されるように、これまで不法滞在のような不安定なステータスでも、市民権を持つものと同じように社会活動ができるようにするような、移民を受け入れる寛容があった。例えば、破綻寸前といわれるアメリカの高額な医療も、必要であれば不法滞在者でも、お金がなくても受けることができる。病院にはそういった人を担当するケースワーカーがいて、相談に乗ってくれる。ただ、そういった彼らが支払えない費用は、アメリカ市民たちの税金で負担されているのである。以前はそれら不法滞在者の生み出すしわ寄せが市民レベルまで届かなかったものが、現在はそれだけ米経済の負担が市民にのしかかってきているとも言える。

 下院を通過したこの不法移民規制法案も、上院では不法移民に対し「ゲスト・ワーカー」プログラムを実施し、いずれは市民権取得への門戸を開くという法案が審議されている最中である。

 国内でのジレンマと戦いつつも、民主主義国家の寛容さを持ち続けることに期待している。


TOPへ | HOMEへ