今、在日同胞から朝日国交正常化を考える

パネルディスカッション発題文

在日同胞青年と朝日国交正常化

在日コリアン青年連合 李哲豪

■はじめに

 私たちは、国交正常化を考える上で、私たちと同じ東アジアに生きる人たちの視点を大切にしたいと思います。特に、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)と日本が「不正常」な関係にありつづけることによって、大きな苦痛を受けてしまう人たちがたくさんいるということ、その現実について目を向けることが重要でしょう。ところが現在、日本社会では拉致問題をめぐって強烈な北朝鮮バッシングが行なわれ、国交正常化どころか北朝鮮の政権打倒・経済制裁といった論調まで支持を得てきている状況です。確かに拉致問題は解決されなければならない重要な問題ですし、北朝鮮政府は真摯に向き合うべきだとも思います。ただ、それが何の罪もない人たちへの迫害や大きな意義のある国交正常化を阻むものであってはなりません。
 朝日国交正常化実現に向けて私たち在日同胞青年の役割は非常に大きいものであると考えます。私たちは、一つは朝鮮半島と日本を股にかけた存在である在日同胞として、一つは今後の未来を担っていく青年世代として、そしてこの社会に生きる一人の市民として、このテーマについて考えなければならないでしょう。
 この発題では、在日コリアン青年連合(以下、KEY)の取り組みを通じて、わたしたちが向き合ってきたことを踏まえながら、在日同胞青年の視点から朝日国交正常化がなぜ必要か、その実現に向けてどのような役割を果たせるのか、を以下述べたいと思います。


■9・17以降、過激化・増大する在日同胞へのバッシング

◇チマチョゴリ事件に象徴−その被害状況

「在日同胞の子どもたちに対する嫌がらせを許さない若手弁護士の会」調べ(2003年、関東の朝鮮学校生徒2710人を対象に実施。)

○嫌がらせを受けたことのある被害者は
 2002年1月から9月16日まで…全体の 5.8%(158人)
 9月17日から2003年3月まで…全体の19.3%(522人)

○男女別で見ると…男子14.1%、女子24.8%

○中高級学校(日本の中学・高校に当たる)に通う女子生徒の嫌がらせ被害は47.6%で、およそ2人に1人。

○嫌がらせの内容
 言葉によるものが圧倒的で、全被害の76.6%。
 暴行による被害は全被害の17% 
 ⇒チマチョゴリを刃物で切られる、駅のホームで突き飛ばされる、殴るける、電車内での中級女子生徒に対するセクシャル・ハラスメントなど悪質なケースが目立つ。しかも加害者の7割以上が男性という傾向。


◇このような状況に見られる日本の排外的ナショナリズム

○北朝鮮に対するイメージが悪化すると、在日同胞が攻撃される
 ⇒だからこそ、在日同胞から積極的な発信
 ⇒日本の排外的ナショナリズムとそれによって差別的待遇を受けつづけてきた存在として、そのようなナショナリズムを克服する主体になるべき


◇拉致問題について

○拉致問題は自分たちの責任ではないが、解決しなければならない問題として向き合う

○拉致問題解決のためにも、国交正常化を


◇在日同胞青年が自らに積極的役割を見出せるようになるためにも、在日同胞青年に対する教育が重要

○自分が在日コリアンであることに社会的な価値を感じ、そのような自身の存在を活かそうとするアイデンティティ教育


 朝日首脳会談における金正日総書記による拉致事件の認定は、在日同胞社会にも衝撃を与えました。拉致問題の事実が表面化されたことで、日本社会では北朝鮮や在日同胞への強烈なバッシングと重大な人権侵害まで生み出されました。そのような中で在日同胞自身が、拉致問題に対して一方では「罪意識」を感じたり、もう一方では「無関心・他人事」を装う傾向が多々見られています。私たちはこの問題に対して、そのように反応するのではなく、本質を見極め、拉致問題の解決のためにも朝日国交正常化が必要であることを訴えたいと思います。また、朝日国交正常化のためには在日同胞の役割も大きいということを認識すべきでしょう。そして朝日国交正常化の実現は、高揚する日本の排外的ナショナリズムの克服にもつながり、在日同胞に対する様々な形でのバッシング・暴力を和らげることにつながるでしょう。


■未だに苦しみを受けている戦争被害者の存在

◇日本政府の戦後補償問題に対する姿勢とその問題点

・65年締結の日韓条約において「解決済み」
 ⇒6億ドルの経済協力の実施、しかし一貫して個人補償は一切なし

・95年「村山談話」をこれまで踏襲:朝日平壌宣言でも明記
 『多大の損害の苦痛を与え…痛切な反省と心からのお詫び』

・被害者個人を完全無視した日韓両政府による政治決着の問題
 ⇒今現在も、そのような不誠実な姿勢が残りつづけている


◇戦争被害者の声

KEYの取り組みを通じて、触れることのできた被害者の方々の思い

 ○「もう二度と同じ過ち(戦争)を起こして欲しくない」という悲痛な叫び
 ○これからの社会を作っていくであろう私たちの世代に対する希望
 ○今の日本が行おうとしている軍事化と過去の侵略行為に対する不誠実な対応に対する大きな危機感と憂い

 被害者の方々と同じ同胞として、そして青年としてできることは、このような被害者の思いを受け止め、戦争の悲惨さとその被害の実情について一人でも多くの人たちに伝えていくことだと思います。そして、その思いを受け止めるからこそ、一刻も早い戦後補償問題の解決が必要だという気持ちを私たちは大切にしながら行動していきたいと思います。


◇平壌宣言での経済協力方式、請求権放棄による「歴史の幕引き」を図ろうとすることには反対

 ○日本政府による明確な謝罪と個人補償が行なわれること
 ○経済協力方式で過去の植民地支配の責任問題を決着させない

 現在にいたる日本政府の明確な謝罪や個人補償を行なわない不誠実なあり方を作った一因でもある65年の日韓条約締結と同じような過ちを繰り返しを繰り返してはいけません。今回の朝日国交正常化の過程を通じて、過去の植民地支配への明確な謝罪と戦争被害者への個人補償がしっかりとなされるべきでしょう。


■飢えに苦しむ北朝鮮の人たち

◇最近の北朝鮮食糧事情

〈国連人道問題調整事務所(OCHA)発表 2003年12月〉

・2004年5月まで国際社会の新たな支援約束が取り付けられない場合、380万人にのぼる北朝鮮住民が食糧配給を受けられない可能性
・現在、北朝鮮の子どもの40%が栄養失調
 「北朝鮮は1990年代末の食糧危機からは徐々に回復しているものの、まだ、慢性的な危機状況から抜け出す兆しは見られていない」と分析。2004年も北朝鮮に向けた支援額として2億2100万ドルを調達してくれるよう要請。

〈国連食糧農業機関(FAO)による勧告〉

・2004年度は約100万トンの食糧不足
 ⇒北朝鮮の人たち、650万人に対して48万4000トンの食糧援助を要請
・90年代から引き続き、慢性的な食料不足
 ⇒そのために国際社会は、「緊急に必要とされる食糧援助に加え、持続的な食料生産と全般的な食料安全保障を促進するための経済、金融及びその他の支援を動員する枠組み作りのため同国政府との政策対話を開始すること」が必要。


◇北朝鮮への支援の必要性とそれがもたらす意味

〈人道支援とは何か?〉

○いかなる政治的状況にも左右されるものではない
 北朝鮮政府への政治的判断と生きるための基本的な必要さえも得ることのできずに苦しむ一般市民への支援とは分けられるべきもの

○北朝鮮への食糧支援についても、極端に生命や健康を脅かされてしまう状況に置かれた人に対する支援を行なう考え方、行動として捉えるべき

日本政府もこのような人道支援的な立場にたって、早急に大規模支援を行なう必要があると同時に、それを通じて朝日間の和解にもつなげていくべきであると考えます。

〈国際食糧支援の成果〉(WFP・北朝鮮政府調べ:援助実施地域の6000世帯を対象に行った調査)

・7歳以下の子どもの低体重の割合
 ⇒61%(1998年)から21%(2003年)に減少
・発育障害もしくは慢性的な栄養不足に陥っている子どもの割合
 ⇒62%(1998年)から42%(2003年)に減少

〈北朝鮮人道支援と朝日国交正常化〉

○支援を通じた民間交流の活性化
 ⇒朝日民間交流によって、朝日間の一人一人の顔の見える関係づくりへ

○食糧危機の改善のためにも国交正常化
 ⇒朝日間の対立状況が支援を滞らせている
 ⇒国交正常化すれば、日本による支援も大幅に増える

〈KEYの取り組み〜私たちにできること〉

・北朝鮮の羅先市でのオリニ(子ども)結縁事業
 羅先市の託児所にいる子どもたちへの栄養食の支援
 一ヶ月一人500円支援することで子どもひとりの一ヶ月分の栄養食が提供できる
 韓国JTSという国際NGO団体を通じて行なっている

・北朝鮮食糧事情を伝えるパネル展示会

・街頭募金活動

 私たちは以上のような人道的立場に基づいた支援事業を行っていますが、特に一般の人たちに支援を呼びかける取り組みを通じては、否定的な反応も多いことは確かです。一方で、支援に賛同してくださる人も比較的多くいます。北朝鮮への支援に賛同してくださる人々の考え方の根本には、私たちと同じく、人道援助という考えがあります。
 現在の日本社会では、人道支援どころか経済制裁をすべきという論調が強くなってきています。しかし、それは北朝鮮の人々を苦しめるだけです。朝日関係の前進のためにも、支援をひとつのきっかけとしながら、朝日間の対話と交流が促進されていくことが重要でしょう。
 この問題の性格からして、私たちは継続して呼びかけていくことの必要性があると思います。 栄養失調に苦しむ小さな子どもの姿を見たり、現地で支援活動を行なっている人の話を聞くことを通じて感じた思いなどをストレートにアピールしていきながら、支援の輪を広げていきたいと考えます。


■私たちの役割

◇日本と朝鮮半島の架け橋になる役割を

○日本と朝鮮半島に住む人たちとの間で、顔の見える関係づくりに向けて

○韓日、朝日の間での市民交流推進の必要性
 ⇒私たちがこの地で生活しているように、韓国や北朝鮮にも私たちと同じように生活    している人たちがいるという当たり前の現実について実感できるプログラムをあらゆるレベルで進めていくことが必要。
 ⇒むやみな戦争肯定や経済制裁論の増長を食い止めることにも。
 そのために韓国・北朝鮮・日本を股に掛けた存在でもある在日同胞が橋渡しの役割を担わなければならないと考えます。

◇KEYのこれまでの国境を越えた架け橋事業を通じて

・〈日本−在日−韓国〉ユースフォーラム
 ⇒日本人、在日同胞、韓国人の青年が一同に会し、出会い・交流と日本と朝鮮半島間に横たわる問題に対する共同行動を創出(毎年、韓国と日本の交互で開催)
 ⇒違う立場の3者の青年や日本と韓国で活躍するNGOの結びつきをつくり、日本と朝鮮半島の和解というテーマを共通項としたアピール活動・要請活動や集会の開催

・〈南北コリアと日本の友だち展〉への協力
 日本、韓国、北朝鮮の子どもたちが描いた絵の展示会の日本開催での協力活動
 ⇒朝鮮半島に住む子どもたちの顔や人柄が思い浮かぶような取り組み
 ⇒メッセージの交換なども行なうことで、実際のつながりが作ることもできる

・韓国青年と協力した取り組み
 ⇒韓国での代表的な青年団体:韓国青年連合会(KYC)との姉妹提携関係
 ⇒朝日国交正常化実現に向けて
 韓国社会でその必要性を世論化すること、日韓のNGO間での協力体制づくり

 日本と朝鮮半島の人々同士の交流と共同行動を創出することによる草の根的な運動を活性化すること、そして韓国社会、韓国青年の中で朝日国交正常化への関心を高めることにこのような架け橋事業の主な意味があります。そして、それが朝日国交正常化実現、日本と朝鮮半島の和解につながるものとして考えています。
 韓国はNGOによる活動も活発であることから、そのNGOとのつながりをより強めることを通じて朝日国交正常化を実現するための広範な連帯を生み出すことが可能であります。
 そして何よりも東アジアの冷戦状況を克服し、朝鮮半島と東アジアの平和を実現するためにも朝日国交正常化が重要であるという認識を韓国社会のみならず、東アジア全域で共有しなければならないでしょう。そのような意味でも、架け橋事業による韓国社会の世論化もまた、朝日国交正常化実現にとって重要だと思います。

◇朝日国交正常化を通じて

 いわれなき暴行や暴言を浴びせられる在日同胞子女、未だ癒えない傷を抱え続けている戦争被害者、食糧がなく明日さえ保障されることのない生活を送らざるを得ない北朝鮮の人々…朝日国交正常化を実現する上で、私たちは、これらの人たちの声に耳を傾け、発信しつづけたいと思います。そして、これらの人たちの傷が少しでも癒され、より良い生活を送れるようになるためにも、これらの人たちの声や痛みが届くような国交正常化であるべきでしょう。残念ながら、現在の状況は、必ずしもそのような方向に向かっていないことに私たちは非常に危機感と腹立たしさを覚えます。
 私たちはKEYの取り組みを通じて、自らの責任のないところで人生を左右するぐらいの大きな被害を受けた人たちがいるということに衝撃を受け、そのような状況を少しでも変えたいという思いを強く持ってきました。
 過去の戦争と冷戦によって苦難の歴史を歩んできた在日同胞の私たち青年世代が、身近なところで朝日国交正常化を訴えかけることから始めていかなければならないと思います。


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