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今、在日同胞から朝日国交正常化を考える

朝日国交正常化の実現を求める在日コリアン青年連合(KEY)のアピール

 朝鮮半島と日本の関係から見たとき、20世紀は戦争と冷戦、植民地支配と国家暴力が支配する時代でした。2002年9月17日に開催された朝日首脳会談は、このような20世紀の歴史を乗り越え、平和と人権が確立された東北アジア地域を作り出していくための歴史的な第一歩になるはずでした。しかしながら、そのような期待は今までのところ現実のものとはなっていません。

 朝日首脳会談で朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の金正日総書記が拉致事件を認定しました。「5人の生存、8人の死亡」という通知は余りにも悲惨なものであり、世論の激しい怒りを買いました。拉致事件の真相究明と拉致被害者への謝罪と補償は当然なされなければなりません。しかしながら日本社会ではこれが大きなきっかけとなり、朝日首脳会談によって開かれた朝日国交正常化の必要性についてはあまり語られず、北朝鮮の「異常さ」や北朝鮮への圧力強化のみが語られています。去る2月には外為法「改正」案が成立し、今国会には特定船舶入港禁止法案が提出されました。同時に、特別永住者の再入国制限まで検討していると伝えられています。これらの法案は、在日同胞の親戚への送金が停止され、朝鮮半島の南北と第三国への渡航権が侵害されるという意味で、重大な人権侵害を導きます。私たちはこれら法案の制定に反対します。そして、このような国家の政策レベルでの制裁や人権侵害のみならず、民間レベルでも在日同胞の子どもたちに対する様々な加害事件が頻発しています。その対象は朝鮮学校に通う子どものみならず、日本学校に通う在日同胞の子どもにも向けられています。私たちはこのことにも激しい憤りを禁じえません。

 また、私たちが注目しなければならないことは、朝日国交正常化の大きなテーマであるはずの植民地支配の謝罪と補償や在日同胞の権利問題が、日本社会の中でまったくといっていいほど語られていないということです。日本社会の中で植民地支配の問題を提起することは拉致事件を相対化させてしまうという認識が幅を利かせているかのようです。しかし、植民地支配の問題と拉致事件は秤にかけられるべきものではなく、双方の問題とも国家の責任を認め、謝罪と補償がなされることによって解決されなければならない問題です。

朝日国交正常化は、拉致事件解決のためのチャンスであると同時に、日本が植民地支配を謝罪し、戦争被害者に対する国家による個人補償を実現するために残されたチャンスでもあります。朝鮮半島と日本における対立と相互不信の歴史を清算し、朝鮮半島と日本の、ひいては東北アジアの平和的な共存関係を作り上げていく大きなチャンスなのです。

 私たち在日コリアン青年連合(KEY)は、朝日平壌宣言の基本精神を高く評価しつつ、一方で朝日平壌宣言方式での朝日国交正常化の実現にはいくつかの問題点・課題点も残されていると考えます。そのことを踏まえ、私たちは朝日国交正常化の実現にあたり、以下のことを強く訴えます。



1.植民地支配の謝罪と戦争被害者個人に対する補償に基づく朝日国交正常化を求めます

 植民地支配に対する明確な謝罪と補償なくして朝鮮半島と日本との関係改善はありません。過去の明確な反省から、朝鮮半島と日本の間の相互信頼関係が芽生えます。

朝日平壌宣言では、「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫び(ハングル表記では「謝罪」)の気持ちを表明した」と明記されました。この朝日平壌宣言の趣旨を活かし、朝日国交正常化条約において、植民地支配に対するより明確な「謝罪」が表明されることが日本と朝鮮半島の未来に向けた関係を作る出発点になると私たちは確信します。

あわせて、朝日平壌宣言では触れられていない韓日併合条約に対する認識が朝日国交正常化条約では正しく定められなければなりません。1965年の韓日基本条約第2条によって定められた「もはや無効」であるとの曖昧な文言を踏襲するのではなく、朝日国交正常化条約では「併合条約はそもそも無効である」と明記されるべきです。明らかに朝鮮民族の意思に反して強制された併合条約を、いかなる意味でも合法化・正当化し得ません。そのような併合条約は当初から無効であるといえます。

 そして私たちは戦争被害者に対する個人補償実現を強く求めます。朝日平壌宣言では「両国及びその国民のすべての財産及び請求権を相互に放棄」し、その上で経済協力を行うことが合意されました。これは韓日基本条約の「経済協力方式」の踏襲です。しかし、これまで日本政府を相手に個人補償を求めてきた戦争被害者たちは、補償問題は「経済協力方式」を定めた「韓日条約で最終的かつ完全に解決」されたとされ、今まで一文の国家補償も受けることができませんでした。朝日国交正常化でもまた同じ過ちが繰り返されようとしていることを断じて許すことはできません。私たちは戦争被害者の悲しむ顔をもうこれ以上見たくありません。「経済協力方式」による解決ではなく、植民地支配の責任を認め、戦争被害者個々人に対する国家補償を実現させることを私たちは強く求めます。

2.拉致事件の解決のために朝日国交正常化の実現を求めます

 拉致事件も個人に向けられた国家暴力です。拉致問題の解決に向けて、まずは拉致被害者とその家族の再会が実現し、当事者の意思と家族の協議を通じて永住の地を決定できることが大切です。あわせて、国交正常化交渉の過程で拉致被害者への謝罪と補償がなされなければなりません。また、北朝鮮により拉致された疑いのある方々の安否解明や拉致事件の真相究明は、調査機関を設置し、真相が明らかになるまで、国交正常化後も徹底的に行われなければなりません。

 拉致事件解決のための努力と朝日国交正常化は二律背反の関係にあるのではありません。拉致事件解決に貢献する朝日国交正常化は実現可能です。しかしながら、「金正日体制が続くかぎり拉致事件の解決はありえない。だから、根本的な解決のために現体制を打倒すべきだ」という考えから、北朝鮮との国交正常化そのものを拒否する考え方も影響力を持っています。現在、日本社会では、交渉の途絶を「毅然とした態度」と評価する雰囲気すら強まっています。

 しかしこのような態度では、拉致被害者と家族の再会、事件の真相究明といった拉致事件の解決を遠ざけるばかりか、拉致事件が起きた一つの背景ともいえる、正常でない相互不信の国家間関係をなんら解決することはできないのです。

 国交が正常化されることは拉致事件という北朝鮮の不正を容認することではありません。また、脅しに屈することでもありません。朝日の国交を正常化しようとすることは、朝鮮半島と日本の長い歴史の中で培われてきた様々な軋轢を解消し、二度と植民地支配や拉致事件などが起こらない社会を作るための積極的な模索なのです。

 「拉致事件の解決なくして国交正常化なし」ではなく、私たちは拉致事件解決のためにも朝日国交正常化の実現を求めます。

3.東北アジアでの戦争を防ぐために朝日国交正常化の実現を求めます

 現在、朝鮮半島の周辺では北朝鮮の「核問題」が大きな焦点となっています。アメリカは北朝鮮を「悪の枢軸」と規定しました。また、2001年に行われた「核体制見直し」(NPR)では、アメリカが核兵器の使用を想定する国として北朝鮮を明記するなど圧力を強めています。一方、北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)から脱退を宣言しました。現段階で北朝鮮が核兵器を保有しているか否かは不明確です。しかし、北朝鮮は、アメリカが敵視政策を放棄しない限り、必要な抑止力として核保有の意志があることを明らかにしています。

 アメリカによる「対北朝鮮敵視政策」は東北アジアの平和を脅かす根源的な脅威要因になっています。そして、それに対抗する北朝鮮による核の「瀬戸際外交」も加わり、朝米の全面衝突の危機はより高まっています。この危機を回避するために六者会談が開催されていますが、朝鮮半島における戦争の危機は今もなお消え去っていません。

 朝日首脳会談は、東北アジアの平和問題を東北アジアの国家間の主体的な努力により、切り開いていこうとする努力を示すものでもありました。朝鮮半島での戦争を防ぐためにできることは、南北関係や朝日関係を進展させ、東北アジアで戦争の起こる余地を残さないことだからです。

 また、朝日平壌宣言には、東北アジアの平和という観点から考えたときに非常に画期的な合意が含まれています。朝日平壌宣言第4項では、「核問題及びミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認し」ています。また、「東北アジア地域の平和と安定を維持、強化するため、互いに協力していくことを確認し」、「相互の信頼に基づく協力関係が構築されることの重要性を確認するとともに、この地域の関係国間の関係が正常化されるにつれ、地域の信頼醸成を図るための枠組みを整備していくこと」も合意されました。

 これは、北朝鮮がそれまで消極的だった「安全保障における多国間アプローチ」を認めたということになります。この間懸念とされている、核やミサイルにかかわる問題も多国間の対話の中で解決される可能性も示されています。

 そして、日本についていえば、「アジア不在、日米同盟重視」という日本の外交の方向性を転換させるものであり、東北アジアにおける多国間の安全保障体制を構築する枠組みが朝日国交正常化の延長線上に示されたことを意味しています。東北アジアの平和を考える上で大きな問題であった日米安保や韓米安保といった二国間関係が、そのような多国間の枠組みに埋め込まれることで、ブッシュ政権の単独主義的な安保戦略にも一定の歯止めをかけることができるかもしれません。

 「核問題」での朝米間の対立の激化に伴い東北アジアで高まる戦争の危機を防ぐためにも、又、朝日平壌宣言第4項に示された、東北アジアにおける多国間の信頼醸成の枠組みを作り出していくためにも朝日国交正常化の実現が求められています。

4.在日同胞の法的地位と権利の保障が実現される朝日国交正常化の実現を求めます

 朝日平壌宣言では、「在日朝鮮人の地位に関する問題・・・については、国交正常化交渉において誠実に協議することとした」とのみ定められ、保障されるべき法的地位や権利の内容について、具体的には触れられていません。

 在日同胞の大多数は植民地支配の結果、日本に居住することとなりました。在日同胞の法的地位及び権利は、その植民地支配に対する責任として保障されることが朝日の間で明確に合意されなければなりません。その総論認識が明確にされた上で、各論の課題として、少なくとも以下の法的地位と権利が保障されなければならないと考えます。

 在日同胞の法的地位については、より拡充された法的地位が保障されなければなりません。まず第一に、いまだ残されている「退去強制事由」を完全に撤廃し、在日同胞を退去強制事由の対象者から除外するべきです。第二に、再入国許可制度を完全に廃止し、在日同胞の日本国外への渡航と日本への再入国を完全に自由にするべきです。第三に、特別永住資格の対象者を拡大するべきです。祖国解放当時日本に住んでいたが、事情により祖国を往来した一時帰国者や、戦後直後に家族を求めて来日した人には、現在のところ特別永住資格が与えられていません。同じ歴史的経緯を持つ在日同胞すべてに特別永住資格が与えられなければならないことは言うまでもありません。第四に、外登法違反に適用される刑事罰は廃止されるべきです。網の目のような義務規定を設け、過酷な刑事罰の威嚇をもって在日同胞を監視・管理する対象とみなすことはやめるべきです。

 在日同胞の権利の問題で語るならば、少なくとも以下の五点が、朝日国交正常化交渉の中で論議され、日本政府によって保障されなければならないと考えます。まず第一に、朝鮮学校を「一条校」に準じて扱い、私立学校と同等の助成金、卒業資格の認定などを制度的に保障しなければなりません。第二に、日本の公立学校における民族教育(民族学級)の拡充が必要です。1991年になされた「韓日覚書」の合意を発展させ、担当教員(民族講師)への制度保障などもより積極的に行われるべきです。第三に、在日同胞の地方参政権の保障が図られなければなりません。第四に、無年金状態に置かれている約5万人と推定される在日同胞の高齢者、そして約3000人と推定される同胞の障害者が年金を受給できるように、日本政府による救済措置がとられなければなりません。苛酷な植民地支配を受け、戦後も差別制度の下に置かれ、不遇な生活を強いられてきた在日同胞の一世を放置することは許されません。第五に、在日同胞の日本教員への採用(教諭採用)及び公務員採用と昇任において残されている国籍条項を完全に撤廃しなければなりません。

 そして、朝日国交正常化交渉によって話し合われる「在日朝鮮人の地位に関する問題」の権利享有主体である在日朝鮮人を、外国人登録法上の「朝鮮」表記の人たちに限定するべきではありません。それは、韓日基本条約締結時に見られた在日社会の分断現象を再来させることにつながります。権利享有の主体は、日本の朝鮮植民地支配によって日本に住むようになった人達及びその子孫としての在日同胞全体とされるべきです。それならば、朝日国交正常化交渉によって話し合われる在日同胞の地位と権利に関する問題に、幅広い在日同胞の声が反映させられなければなりません。そのような場が、今後作り出されなければならないでしょう。

5.北朝鮮と日本との交流・協力の促進のために朝日国交正常化の実現を求めます

 19世紀末から20世紀にかけて朝鮮半島をめぐり戦争が何度となく繰り広げられました。そして、朝鮮半島と日本の間では、植民地支配と国家暴力による個人の人権の侵害が後を絶ちませんでした。そのような過去を乗り越え、21世紀は人権と平和が何よりも尊重される時代にならなければなりません。そのために大きな役割を果たすことができるのが、この地域に暮らす市民やNGOが交流・連携する国境を越えた市民社会であり、地域レベルで平和を求める声とアクションです。21世紀は市民同士のプラスの交流が未来を作り出します。

 今マスコミを通じて流れてくる北朝鮮に関する報道は否定的なイメージであふれています。北朝鮮との交流を進めようと積極的に訴える人も多くはありません。しかし、朝鮮半島と日本の間で平和と人権が確立される未来を作り出していくために、大切な主体は市民です。朝鮮半島と日本の人々が直接出会い交流を積み重ねていくことによって新しい関係を築き上げていく努力こそが、この地域の平和と人権の確立に貢献します。

 このような観点から、北朝鮮と日本の人的交流を活発にしていく必要があります。同時に、未来の共生社会のパートナーである、飢えに苦しむ北朝鮮の人々への人道支援を積極的に進めていく必要もあります。このような市民レベルでの努力は朝日国交正常化への道を切り開くものです。そして、この努力をより確実なものとし、北朝鮮と日本の間に友好と平和共存の空気を作り出すためにも、一刻も早い朝日国交正常化の実現を私たちは求めます。



 朝日国交正常化の実現は、朝日二国間だけの問題にとどまりません。それは、2000年6月に行われた南北首脳会談の成果と共鳴しつつ、東北アジア地域の多国間関係の進展に連動することでしょう。この東北アジア地域の多国間関係の進展の延長線上に、私たちは「東北アジア共同体」の夢を描くことができます。「東北アジア共同体」が作られることにより、日米中ソなどの周辺大国によって翻弄され、戦争の惨禍に苦しんできた朝鮮半島の歴史に終止符が打たれ、平和な東北アジアが作り出されることでしょう。「東北アジア共同体」が作られることにより、アジアで加熱するナショナリズムが相対化され、各国社会がより開かれた社会へと変化していくことになるでしょう。そのような夢を現実のものとするためにも、南北関係と朝日関係の進展を着実に進めていく市民の力強い声が必要です。

 KEYは2004年5月から9月17日にかけて、「東北アジアに平和を!日本と朝鮮半島の100年の歴史の清算を!市民の声が反映された日朝国交正常化を要求する 日本‐在日‐韓国一万人宣言」活動を行います。朝日国交正常化は一次的には北朝鮮と日本の課題、あるいは在日同胞と日本の課題ですが、朝日国交正常化の持つ影響力は、韓国のみならず、東北アジア全域に確実に波及するものです。だからこそ、東北アジアに生きる韓国人、在日同胞、日本人がともに朝日国交正常化を訴えていきたいと思います。そして、9月17日に私たちは宣言を発表し、何らかのアクションを起こしたいと思います。また、日本・在日・韓国それぞれのNGOの立場から朝日国交正常化を考えるシンポジウムも計画中です。現場を持つNGOの視点から朝日国交正常化に望むことをアピールしていきたいと思います。

 在日同胞は日本社会にも朝鮮半島にもつながりを持ちながら国家の境界に生きる存在です。そのことがかつて否定的に理解された時代もありました。しかし21世紀には、国家の境界から発信する在日同胞こそが東北アジアの未来を切り開いていくことができると私たちは確信しています。そのような在日同胞の先駆性を発揮しつつ、私たちは朝日国交正常化を求める活動にまい進します。

2004年4月18日
在日コリアン青年連合(KEY)

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