粘り強い対話努力と相互理解の促進から日朝国交正常化を
電撃的とも言うべき初の日朝両首脳の会談から6年が過ぎた。この会談は、隣国でありながら半世紀にわたり、外交の「空白」状態が継続するという異常な関係性にある日本と朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)が、東アジア地域の平和と安定のために、関係諸国間の信頼醸成を図るための枠組みを整備していくことが重要であるとの合意に至った点で画期的であり、私たちは大いに期待を寄せた。しかしながら、拉致事件に端を発する日本国内世論の対北感情の極度の悪化、日本政府による経済制裁の発動、北朝鮮の核実験などが起こる中で、両国関係は冷却化し、改善の方向には向かってこなかった。
私たちは、両国及び東アジアにおいて平和と共存を実現する重要な要素となる日朝国交正常化実現のために、このような停滞状況を克服し、より大局的な見地に立って日朝間の対話が推進されることの必要性を改めて訴えたい。
■米朝関係の改善と朝鮮半島の非核化プロセス
現在、北朝鮮の核問題をめぐって六カ国協議参加国間、とくに米朝間において対話プロセスが継続しており、それが今後の朝鮮半島を含めた東北アジアの安全保障問題において重要な変化をもたらす新たな兆しを見せ始めている。
昨年9月に開催された第6回六カ国協議の第2ラウンドでは、大幅な進展が見られた。ここで北朝鮮は、寧辺の実験用軽水炉、核燃料の部品製造工場などの無能力化と、全ての核計画を正確に申告することに同意する一方で、米国が北朝鮮の「テロ支援国家指定」を解除し、「敵国貿易法」の実施の中止を約束するに至った。合意に基づき今年6月には北朝鮮側から核計画の申告書が提出され、米国は「テロ支援国家指定」を45日以内に解除し、「対敵国通商法」の適用も撤廃すると明らかにした。しかしながら核施設無能力化の検証方法をめぐり米朝間で合意に至らず、米国は「テロ支援国家指定」解除の延長を決定、北朝鮮側は無能力化作業を中断し、原状回復の作業に着手したと報じられるなど、硬化した態度も見せる中で、事態は再び膠着状態に陥った。
私たちは朝鮮半島の非核化に向けて、六カ国協議の参加国それぞれが、その進展に向けた責任を積極的且つ誠実に果たすべきだと考える。六カ国協議の共通認識は、北朝鮮が核を担保とした外交政策を講じる必要性を無くすための国際環境作りであったはずだ。北朝鮮が一貫して重視するのは、米国による敵視政策を撤廃することであり、「テロ支援国家指定」の解除はその象徴的なプロセスといえるだろう。今は、朝鮮半島の冷戦構造解体に向けた最大の要因となるであろう米朝関係の改善が着実に進展するよう、六カ国協議関係国が積極的に努力をすべき時である。とくに日本はその進展を阻害してはならない。
■日朝交渉を通じた過去の克服
日朝間については、今年に入り、米朝の関係改善に歩調を合わせて日朝間交渉が進展の兆しを見せている。昨年9月のウランバートルにおける国交正常化作業部会の会談後、今年6月には、9カ月ぶりに公式協議が行われた。さらに8月の実務者協議においては、北朝鮮が「可能な限り秋まで」にと具体的な日程に踏み込んで「すべての拉致被害者」の再調査を行うとし、日本側が見返り措置として対北朝鮮制裁を部分解除すると伝えた。しかし9月4日、北朝鮮は福田康夫首相の辞任に伴い、拉致問題に関する調査委員会の立ち上げを延期すると日本側に通告したことから、今後の変化は現在不透明な状況だといえる。
私たちは、まず北朝鮮政府が取るべき立場として、日本の政情に関わらず自らが率先して拉致被害者の安否調査や情報公開、その他被害者救済に対する必要な措置を誠実に果たしていくことが当然の義務であるということを確認しておきたい。
その一方で、今日まで続いている日朝間の不正常な関係性が、拉致事件の解決を遅々として進ませない要因となっていることも併せて指摘しておきたい。
そして、日朝間の大きな課題であるはずの植民地支配の謝罪と補償についての議論が、この間ほとんど為されていないことを私たちは危惧している。「平壌宣言」には植民地支配に対する責任を「経済協力方式」で解決することなどが明記された。しかし、韓国との間においても、日韓条約で、同様の方式で決着を図った結果、その後の被害者の告発や資料の発掘・調査によって現在に至るまで日本の戦後補償問題が提起され続け、今の日韓間の歴史認識のギャップ、友好関係の停滞の原因を再生産しているという事実を直視しなければならない。日本人拉致問題の解決も、植民地支配の清算も、国家暴力による被害回復の問題として、人権の観点から双方の国家が自らの過ちを誠実且つ主体的に見つめ直して解決していかなければならない問題である。
■深刻化した北朝鮮の食糧難にどう向き合うか
現在の北朝鮮は慢性的に継続する食糧不足に加え、昨年起こった水害などで現在深刻な食糧難に見舞われている。世界食糧計画(WFP)は7月30日、「北朝鮮は1990年代以降最悪の食糧危機に苦しんでいる」「度重なる洪水や収穫量減少により、北朝鮮は90年代並みの食糧難に陥っており、住民数百万人が飢餓の危機に瀕している」と明らかにした。既に餓死者も出ていると報告している韓国の民間支援団体もある。韓国・中国・米国などの周辺国政府やNGOが支援を行っている一方で、日本政府は拉致問題の進展がないことを理由に食糧支援を中断している。
特に食糧難の犠牲になりがちな子どもや老人に対する援助は急務であるにも関わらず、政府レベルはもちろん、両国間関係を改善の方向に導く大切な主体となる民間レベルにおいても支援に向けた具体的な動きがほとんど見られない。人道支援を継続して行ってきた私たちは、このような状況を非常に憂慮している。失われんとする人命を救うということが人道支援の第一義的課題であるとともに、支援を通じた交流は、北朝鮮の置かれている状況を冷静に理解する道へとつながり、感情的な反発を超えて相互の信頼関係を醸成する大きなチャンスにもなり得ると考える。そのような意味で、政府、民間レベルを問わず、多様なチャンネルを通して人道的立場からの積極的な支援が行われることを望む。
■停滞する南北関係の改善を
南北関係においては昨年10月、2回目の南北首脳会談が開催され、共同宣言文が発表された。そこでは「南北関係を相互尊重と信頼関係にしっかりと転換していく」、「朝鮮半島での緊張緩和と平和を保障するため緊密に協力していく」など、南北の和解と協力、恒久的な平和体制を構築していくという2000年の6.15南北共同宣言の精神を再確認し、幾つかの具体的な行動案についても合意するに至った。しかしながらその後の南側の新政権の対北政策に対する北側の反作用、金剛山観光客射殺事件とその取り扱いを巡る対立などから、韓国はこの地域の平和体制の構築に向けた論議の中で、なかなか存在感を発揮できずにいる。初の南北首脳会談から8年が経過し、南北関係は、部門別政府間対話の拡大、離散家族の再会事業、開城工業団地の造成、それ以外にも多数の実例を挙げることができるほど着実に進展してきた。この流れを押し留めることなく南北関係のいっそうの改善に向けて、両政府が誠実に向き合う努力を講じることを望む。
■在日コリアンにとっての日朝関係
2006年10月より実施されてきた対北朝鮮制裁措置は、政権を跨いで4月11日に三度目の延長が決定された。特に、日本と北朝鮮を結ぶ“万景峰92号”の運行が長期にわたって就航できないという状況は、肉親との再会や墓参を望む在日コリアンの祖国往来に大きな支障をきたしている。この制裁措置は、日朝間、そして在日コリアン社会に緊張を生み出すなど、両国の関係改善にとって大きなマイナス要素となっている。今、日本がとりうる姿勢は、圧力一辺倒の政策を転換し、対話強化に向けた真摯な努力を行うことではないだろうか。
私たち在日コリアンは、朝鮮半島と日本という三つの国家の狭間に生き、その国家間関係に常に翻弄されてきた歴史を持っている。しかしながらそれぞれの国家を当事者意識を持って見つめてきた経験があるからこそ、境界から発信する在日コリアンの声は両者を媒介する少なくない価値を発揮できるものとなり得るし、同時に在日コリアンという存在は東アジアの未来を切り開いていくことができる主体になり得るということを確信している。
日朝間の不正常な関係は長きにわたって続いてきた。この間山積した課題を即座に解決することの困難さは認めつつも、第一義的な主体である日朝両政府が、葛藤を乗り越えるためのたゆまない対話の努力を積み重ねていくことが必要である。さらにこれらのビジョンを現実のものとする土台として、市民間の相互理解と具体的な交流が一層促進されなければならない。日朝の国交正常化の持つ影響力は、新たな段階に入りつつある東アジア全体の平和体制構築に向けたプロセスにも確実に貢献するはずである。
このような認識のもと、私たちは改めて日朝間の対話促進と、国交正常化を強く求めるものである。
2008年9月17日 在日コリアン青年連合
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